「国民皆保険法には多くの欠陥がある」との野党の批判を報じる現地紙Nipashe(2022/10/21)
タンザニアでは今月末から開催される国会で、国民皆保険に向けた法案が再度審議される予定です。あまねく国民が保険の恩恵にあずかれるのだとしたら、とくに経済的困窮者や貧困家庭がその制度によって救われれるのであれば歓迎したいところではあります。
しかし現在審議のテーブルに乗っている法案は、文字通り国民“皆”保険を達成するために、驚くような内容が盛り込まれています。それは保険に加入しなければ、国民ID、納税者番号などの登録ができなくなる、運転免許証、パスポートが発給されなくなる、携帯電話のSIMカードが登録できなくなる、さらに大学への入学が許されなくなるという懲罰的措置が謳われていることです。本当に驚くしかないような内容です。
日本ではその善し悪しの議論は他に譲るとして、政府がマイナンバーカードの国民への普及を図るため、マイナポイントというインセンティブを設ける手法を採りました。これが奏功してかどうか、マイナンバーカードの取得者数がついに運転免許証の保持者数を上回ったとのニュースが先日報道されたばかりです。これに対してタンザニア政府は、まったく逆の懲罰的手法を用いて国民の保険への加入を強いようとしていることになります。言葉はよくありませんが、本当にヤクザのようなやり方だと思えてしまいます。
もちろん、こうした法案に対して野党や識者の一部からは批判が噴出しています。こうしたことから今月開催される国会では、おそらく先の「懲罰」の幾つかは撤回されるものと思われます(たとえば国民ID、パスポート、納税者番号、SIMカードの登録、取得)。それでもまだ運転免許証の取得や自動車保険に加入できない、大学への入学が認められないといった問題は残されたままです。
さらに保険料の問題があります。安い保険料でメリットを享受できるのであれば、懲罰的措置などなくても国民はみんな保険に加入するのでしょうが、いま言われている保険料は6 人家族(保険料支払者と扶養家族5人)で年間 340,000 シリング。これはかなりおおざっぱな言い方になりますが、1カ月分のお給料が消えてしまう金額です。簡単に払える額ではないでしょう。
そして気になるのは、保険料が払えないような困窮家庭にどう救いの手を差し伸べるかです。政府はこうした家庭は保険加入していなくても保険の適用が受けられるように検討していますが、対象となる「困窮家庭」をどのように定義し抽出するのかについては明確にされていません。
法案が可決成立すれば、2026年から国民皆保険制度の運用が開始される予定です。現在のままでは問題が大きく、十分な審議をし、必要な改善と修正を行って欲しいと思っています。
ここまで国会で審議される予定の国民皆保険制度について触れましたが、この保険に絡み、私たちの活動では制度以前のことといえる問題が生じています。
私たちはキリマンジャロ山麓テマ村で、診療所(県営)の支援を行っています。2020年に開設したばかりのまだ新しい診療所で、これまで保険適用の登録がされていませんでした。そのため村から保険の適用が受けられるよう、県政府に依頼をし続け、昨年ようやく登録が完了される見通しでした。ところが県側が登録番号を誤って他の診療所に付与してしまったことが判明し、これを修正するよう抗議していました。しかしその作業がまったく進みません。
これまでの状況を見るに、おそらく県政府に誤りを正す気はなく、来年度以降に新たな申請の形で登録を先送りするつもりなのだと思えます。保険適用を待つ診療所は少なくなく、先送りされればいつになるのか分かりません。国民皆保険が始まり高い保険料を払って加入しても、地元の診療所で保険の適用を受けられないというのでは、一体何のための国民皆保険かと思ってしまいます。
今年は必ず保険適用がされるよう、地元選出の国会議員にもお願いし、強力に県をプッシュするつもりです。
テマ診療所の支援にご協力ください!
当会は現在、テマ村の診療所に医師と看護婦が常駐できるよう、診療所付帯施設の建設に取り組んでいます。これまでに屋根の取り付けまで完了できましたが、まだ内装や窓、ドアの取り付け、伝染の引き込みなどができず残っております(画像)。完成させるためには約40万円(20万円×2世帯分)の資金が必要とされております。
緊急の患者に対応するためには医師の常駐が必須です。ぜひこの建設を支援していただけますよう、お願い申し上げます。
■ご寄付の方法
・郵便振替
→ 口座番号: 00150-7-77254
加入者名: タンザニア・ポレポレクラブ
※ 振込用紙の備考欄に「診療所支援」とご記入ください。